物理化学・物理学

ウィーン標準平均海水:水の同位体比と物性測定の基準

ウィーン標準平均海水:水の同位体比と物性測定の基準
ウィーン標準平均海水(VSMOW)の概要、同位体組成、歴史的背景、温度標準への利用について解説する百科事典記事です。

📌 主なポイント

  • ウィーン標準平均海水(VSMOW)は、国際原子力機関(IAEA)によって公布された水の安定同位体標準である。
  • 名称に海水とあるが、実際には塩分を含まない蒸留された純水である。
  • 2005年に国際度量衡委員会が熱力学温度のケルビン目盛の定義における水としてVSMOWの公称組成比を指定した。

ウィーン標準平均海水(ウィーンひょうじゅんへいきんかいすい、英: Vienna Standard Mean Ocean Water、略称: VSMOW)とは、水の安定同位体比測定における国際的な基準(同位体標準)の一つである。名前に「Ocean Water(海水)」と含まれているが、実際の海洋中に含まれる塩分やその他の化学物質を取り除いた蒸留純水である。

最初のVSMOW容器(当時はSMOW-1と呼ばれた)
最初のVSMOW容器(当時はSMOW-1と呼ばれた)。ハーモン・クレイグによって精製された。

名称と定義の背景

「海水」という名称が使われているのは、水分子が水循環の過程(雨、雪、河川水、湖沼水など)を経たものではなく、海洋から採取されたことに由来する。同位体の種類によって分子の蒸発速度や凝縮速度がわずかに異なるため、採取された環境やステージによって水の同位体比は異なる特徴を持つ。

VSMOWは海水の化学的性質をそのまま表すものではなく、精製された無塩の純水である。これは、地球上の水試料間における同位体比の比較や、水の物性に関する高精度な測定を行うための標準物質として利用されている。

歴史的経緯

VSMOWが制定される以前は、平均化された海水や融雪水などが参照物質として用いられていた。1960年代に入り、平均的な海水の同位体比基準を定める「標準平均海水(Standard Mean Ocean Water, SMOW)」という概念が発展した。

当初は米国国立標準局(現・米国国立標準技術研究所)による「NBS 1」などが世界的に用いられていたが、1967年にカリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所のハーモン・クレイグらが国際原子力機関(IAEA)の要請を受け、赤道および180度経線に沿って採取された海水を蒸留・混合した参照水を作製した。この水試料は当初「SMOW-1」と名付けられたが、既存の標準物質と同位体比にわずかな差異があったことなどから混乱が生じた。

1976年のIAEAコンサルタント会議における勧告を受け、名称は「Vienna-SMOW(ウィーンSMOW)」に変更され、1995年頃から同位体ベンチマークとして広く推奨されるようになった。

同位体組成

VSMOWの同位体組成は、希少同位体のモル存在量を最も一般的な同位体の存在量で割った比率(単位はppm)によって指定されている。

  • 2H/1H: 155.76 ± 0.1 ppm(約6420分の1)
  • 3H/1H: (1.85 ± 0.36)×10-11 ppm(物性研究ではゼロとみなされる)
  • 18O/16O: 2005.20 ± 0.43 ppm(約498.7分の1)
  • 17O/16O: 379.9 ± 1.6 ppm(約2632分の1)

水分子(H2O)は水素原子2個と酸素原子1個から構成されるが、VSMOWの組成は原子全体の比率で定義されており、分子ごとの特定の同位体組み合わせを固定しているわけではない。

VSMOW2

初期に作製されたVSMOWは経時的な消費により枯渇しつつあるため、2006年には代替品としてVSMOW2(Vienna Standard Mean Ocean Water 2)が開発された。VSMOW2は、元のVSMOWと可能な限り同じ同位体組成を持つように調製されている。

温度標準としての利用

国際度量衡委員会は2005年に、熱力学温度のケルビン目盛の定義に用いられる水がVSMOWの公称組成比を持つべきであると定めた。この決定は2007年の第23回国際度量衡総会で採択され、実質的にVSMOWの三重点を273.16 K(0.01 °C)ちょうどとする定義を補強した。

なお、2019年のSI基本単位の再定義においては、ケルビンの定義がボルツマン定数に基づく形に変更され、水の物性値そのものからは切り離された。しかしながら、入念に蒸留された高純度のVSMOWは、温度の高精度測定における参照標準を作成する上で重要な役割を持ち続けている。異なる環境で採取された水試料は同位体組成のわずかな違いによって三重点や蒸気圧に差異が生じるため、正確な測定には標準的な組成を持つ水の利用が求められる。

よくある質問

VSMOWは実際の海水ですか?
名称に海洋の水(Ocean Water)と含まれていますが、海洋から採取された水を元に精製・蒸留された塩分を含まない純水です。
VSMOWは何のために使われますか?
実験試料を測定する機器の標準化や、研究所間での同位体比測定結果を比較するための基準物質として利用されます。
VSMOW2とは何ですか?
初期のVSMOWが枯渇しつつあることに伴い、2006年に元のVSMOWと同じ組成を持つように開発された代替品の参照物質です。

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国際原子力機関同位体水の性質国際単位系

参考文献

  • T. B. Coplen (1994). Reporting of Stable Hydrogen, Carbon, and Oxygen Isotopic Abundances. Pure and Applied Chemistry, 66(2), 273-276.
  • United States Geological Survey Reston Stable Isotope Laboratory (2019). Report of Stable Isotopic Composition - Reference Material VSMOW.
  • International Union of Pure and Applied Chemistry (2003). Atomic Weights of the Elements: Review 2000.