気象学
尾流雲(ビルガ)の概要と気象学的特性

尾流雲(ビルガ)は、雲から落下する降水が地表に到達する前に蒸発・昇華する気象現象です。その特徴や発生メカニズム、航空気象への影響について解説します。
📌 主なポイント
- ✓尾流雲(ビルガ)は、雲から降る雨や雪が地表に達する前に蒸発・昇華する現象である。
- ✓筋状の構造は「降水条」とも呼ばれ、粒子の蒸発やウインドシアによって形状が変化する。
- ✓蒸発時の冷却効果により下降気流(ドライ・ダウンバースト)を発生させることがあり、航空安全上の注意が必要である。
- ✓「尾流雲」という日本語訳は、1950年に中央気象台の観測法改訂委員会によって正式に採用された。
尾流雲(びりゅううん、ラテン語学術名:virga、略号:vir)とは、雲から落下する雨や雪などの降水が、地表に到達する前に大気中で蒸発または昇華してしまう気象現象です。気象学的には「部分的に特徴のある雲(副変種)」として分類されます。
物理的特徴とメカニズム
尾流雲は、雲の底から柱状や筋状に垂れ下がるように見えます。この筋状の構造は降水条(fall streaks)とも呼ばれます。筋が垂直ではなく斜めに傾いたり、途中で曲がったりするのは、主に落下する粒子の蒸発・昇華によって粒径が小さくなり、終端速度が変化するためです。また、鉛直方向のウインドシア(風向や風速の急変)によってもその形状は影響を受けます。

発生する雲の種類
尾流雲は、巻積雲、高積雲、高層雲、乱層雲、層積雲、積雲、積乱雲など、様々な雲形で見られます。特に高層雲や乱層雲では頻繁に観測されます。房状高積雲が消滅する過程で氷晶が尾流雲となり、巻雲へと変化するケースも知られています。

航空気象への影響
地上で降水が観測されなくても、上空を飛行する航空機にとっては降水を受けるリスクがあります。また、尾流雲から落下する水滴が蒸発する際、周囲の熱を奪うことで下降気流が発生し、ドライ・ダウンバーストを引き起こすことがあります。これは航空機の運航において注意が必要な現象です。
名称の由来
ラテン語の「virga」は、棒、杖、枝などを意味します。日本語の「尾流雲」という訳語は、戦後の気象観測法改訂の際、当時の測候課長であった吉武素二らによって考案され、1950年(昭和25年)発刊の『地上気象観測法』で初めて採用されました。
よくある質問
尾流雲と降水雲の違いは何ですか?
降水が地表に到達すれば「降水雲」となりますが、地表に到達する前に蒸発・昇華して消えてしまうものが「尾流雲」です。
尾流雲はなぜ曲がって見えるのですか?
落下する粒子が蒸発・昇華して小さくなることで終端速度が遅くなることや、上空の風向・風速の変化(ウインドシア)の影響を受けるためです。
尾流雲は航空機にとって危険ですか?
地上では雨が降っていなくても上空では降水を受ける可能性があるほか、蒸発に伴う下降気流(ドライ・ダウンバースト)が発生する場合があり、航空機の運航に影響を与える可能性があります。
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参考文献
- World Meteorological Organization (2017). International Cloud Atlas.
- 田中達也、『雲・空』〈ヤマケイポケットガイド 25〉、山と溪谷社、2001年。
- 水野量「『尾流雲』の由来を知る吉武素二元気象庁長官からの手紙」『天気』第42巻第1号、日本気象学会、1995年。