前後(方位・概念の解説)

📌 主なポイント
- ✓前後とは六方位の一つであり、進む方向を「前」、対蹠に退く方向を「後」と呼ぶ。
- ✓鏡は鏡面に垂直な方向を反転させる作用を持っており、物理的には左右ではなく前後を反転させている。
- ✓令制国名の「前」「後」の区別は、京に近い側を「前」、その先や背後を「後」として命名された。
前後(ぜんご・まえうしろ)とは、六方位(六方)の名称の一つであり、縦や奥行を指す方位の総称である。このうち、進む方向を「前(まえ)」、これと対蹠に退く方向を「後(うしろ)」と呼ぶ。
古くは「まへ」・「しりへ」とも呼ばれていた。「へ」は方向を指し、「まへ」は目の方向、「しりへ」は背の方向を意味している。

相対的意味と空間認知
平面上の地図においては、北を前、東を右とすることが一般的である。しかし、観測点の位置により、四方における左右前後と東西南北は相対的に異なる。
平面の方向では、縦は「前後」ではなく「上下」を指す事が多いが、これは前後と平行する方向に立てた時の称である。立体では、「前後」が縦や奥行で、高さや深さを意味する上下とは概念が相対的に異なる。
鏡は一般に左右を反転すると言われるが、水平の鏡面上に立つ所を想像すれば判る通り、鏡は鏡面に垂直な方向を反転する作用を持つ。そのため、鏡を正面から見る時、鏡は前後を反転していると考えることができる。観測者(実像)と鏡像の関係は、直交座標系の右手系と左手系の関係と同じである。観測者の右方向をX軸、前方向をY軸、上方向をZ軸とすれば右手系直交座標系となり、鏡像の右方向をX'軸、前方向をY'軸、上方向をZ'軸とすると、YとY'が逆方向になる一方でXとX'、ZとZ'は同じ方向となる関係を示す。
時間軸における前後
時間においては、「話が前後する」「…する前」「…した後」「以前に言ったように」「後回し」「前近代」というように、早い方を「前(先)」、晩い方を「後」として示す。英語で「時間軸が前の」「優先する」を意味する "anterior" の原義は「前方の」、「時間軸が後の」「劣後する」を意味する "posterior" の原義は「後方の」である。
これとは逆に、「時の流れが後を向いている」「これから先」というように、早い方を「後」、晩い方を「前(先)」として示す場合もある。
日本における地名と令制国名
令制国時代の旧国名に「前」や「後」が付く場合、京に近いか遠いかを示している。
- 京に近い越前国(福井県北部)とその先の越後国(新潟県)
- 京に近い備前国(岡山県東部)とその先の備後国(広島県東部)
- 京に近い豊前国(福岡県東部と大分県北部)とその先の豊後国(大分県中南部)
- 京に近い筑前国(福岡県西部)とその先の筑後国(福岡県南部)
- 京に近い肥前国(佐賀県と長崎県)とその先の肥後国(熊本県)
また、京に近い地域では、京を基準にその後背地域に「後」を付す例も見られる。例えば、京に近い丹波国(京都府中部内陸地方)に対してその後背地域である丹後国(京都府北部沿岸地方)があり、奈良時代の都であった平城京に対して平城山の後背地域である山後(山背=山城国。現在の京都府南部)がある。